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東京地方裁判所 平成8年(ワ)11186号 判決 1997年10月24日

原告

熊谷勲

原告

瀧口幸次

右両名訴訟代理人弁護士

内田文喬

二宮仁

被告

新光ランド株式会社

右代表者代表取締役

内田昇次

右訴訟代理人弁護士

徳田幹雄

橋本正勝

高橋郁雄

板澤幸雄

主文

一  被告は、原告熊谷勲に対し、金二三〇万六六〇〇円及びこれに対する平成八年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告瀧口幸次に対し、金七五二万五〇五〇円及びこれに対する平成八年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告熊谷勲に対し、金四八二万八〇〇〇円及びこれに対する平成八年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告瀧口幸次に対し、金一一九四万三三〇〇円及びこれに対する平成八年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

被告の元従業員である原告らが退職金等を請求している事案である。

一  争いのない事実等(括弧内に証拠の記載のないものは争いのない事実)

1  原告熊谷勲(以下、原告熊谷という)は、昭和五五年七月に新光不動産株式会社(以下、新光不動産という)に入社し、昭和六二年五月一日、新光不動産が一〇〇パーセント出資する被告に転籍し、平成七年一〇月一六日に退職するまで両社を通じて一五年三か月間在職した。

2  原告瀧口幸次(以下、原告瀧口という)は、昭和四八年一月に新光不動産に入社し、昭和六二年五月一日、被告に転籍し、平成八年二月末ころないしは同年三月一五日ころに雇用契約が終了するまで両社を通じて二三年二か月間在職した(書証略、弁論の全趣旨)。

3  被告の従業員に対しては、新光不動産の就業規則、給与規定及び退職金についての規定が適用され、退職金計算における勤続年数は新光不動産及び被告の在職年数が通算された。

4  原告熊谷の退職金額は、基本となる金額(退職時の基準賃金か基本給かは争いあり)に一五と一二分の三(勤続年数分、但し原告熊谷の計算は小数点以下を切り捨てて計算している)を乗じ、さらに〇・八(勤続年数一五年以上二〇年未満自己都合退職の場合)を乗じた額となる。原告熊谷の退職時の基準賃金は、基本給三五万三〇〇〇円、職務手当一六万八〇〇〇円、役付手当四万円、家族手当八〇〇〇円の合計五六万九〇〇〇円であった。

5  原告瀧口の退職金額は、基本となる金額(退職時の基準賃金か基本給かは争いあり)に二三と一二分の二(勤続年数分、但し原告瀧口の計算は小数点以下を切り捨てて計算している)を乗じ、さらに〇・九(勤続年数二〇年以上三〇年未満自己都合退職の場合)を乗じた額となる。原告瀧口の退職時の基準賃金は、基本給三五万三〇〇〇円、職務手当一六万五〇〇〇円、役付手当四万円、家族手当一万一〇〇〇円の合計五六万九〇〇〇円であった。

6  退職慰労金規程の第四条には、「1 停年・死亡の場合又は会社都合により退職する者には退職時の本給に別表第1の支給率を乗じた額を退職慰労金として支給する。2 本人の都合により退職する者には退職時の本給に別表第2の支給率を乗じた額を退職慰労金として支給する」との記載がある。また、別表については、「退職慰労金規程(別表)を次の通り改訂する(四五・一・五)」との前文に続いて「(1)停年会社都合の場合 退職慰労金額=(退職時の基準賃金)×勤続年数 (2)自己都合の場合は上記算出額に次の率を乗じた額とする」(以下省略)との記載がある。(書証略)

7  給与規定は、昭和四五年一月五日から施行されたが、その第二条に基準賃金には基本給、職務手当、役付手当、家族手当がある旨の記載があり、第二章基準賃金、第一節基本給、第八条本給額として、第八条で基本給について定められ、第二節附加給として第九条から第一一条で職務手当、役付手当、家族手当について定められている。

8  被告は、退職金について、原告熊谷に対して二〇〇万円の支払いをしたが、原告らに対してその余の支払いをしていない。また、被告は、原告瀧口に対し、平成八年二月分の職務手当一六万五〇〇〇円の支払いをしていない。

二  争点

1  原告瀧口が退職金請求権を有するか

2  退職金計算の基本となる金額が基準賃金か基本給か

三  当事者の主張

(原告ら)

1 給与規定が制定された昭和四五年一月五日に、退職慰労金規程の別表が改訂されて、基準賃金を退職金計算の基礎とすることになったと考えられるので、原告熊谷は基準賃金五六万九〇〇〇円に一五を乗じ、さらに〇・八を乗じた六八二万八〇〇〇円、原告瀧口は基準賃金五六万九〇〇〇円に二三を乗じ、さらに〇・九を乗じた一一七七万八三〇〇円が退職金額である。なお、原告熊谷は二〇〇万円のみ支払いを受けた。

2 被告は、原告瀧口に対し、平成八年二月分の職務手当一六万五〇〇〇円の支払いをしない。

3 被告の主張1のうち、原告瀧口に懲戒解雇事由が存したとの主張は争う。新光建設株式会社(以下、新光建設という)の小田原支店では(厚木地区は別の支店が管轄していた)、現金の取扱いが禁止され、請負代金等は注文者から本社に直接送金される取扱いとなっており、野沢利明(以下、野沢という)が請負代金を横領したことを防止出来なかったことが、原告瀧口の「業務上の怠慢又は監督不行届」(就業規則四七条四号)あるいは「業務に関し、重大な過失」(就業規則四七条七号)にあたるとはいえない。

4 被告の主張2のうち、被告が内部的にではあれ、原告瀧口に対して懲戒解雇手続をとったとの点は否認する。また、過去に遡って懲戒解雇の意思表示はできないから、原告瀧口は退職金請求権を失わない。さらに、職務手当のカットについても、原告瀧口が役職としての責任を果たしていなかったとはいえないし、これをカットする法的根拠も存しない。

5 原告熊谷は、被告に対して退職金四八二万八〇〇〇円と遅延損害金の支払いを、原告瀧口は、被告に対して退職金一一七七万八三〇〇円及び職務手当一六万五〇〇〇円の合計一一九四万三三〇〇円と遅延損害金の支払いをそれぞれ求める。

(被告)

1 原告瀧口は、平成四年九月に被告の小田原・厚木地区の土木建設部門として設立された新光建設の小田原・厚木地区の業務責任者として出向し、従業員を管理監督すべき地位となった。新光建設の従業員である野沢は、被告に入金されるべき請負代金について、湯河原町公共下水道第四工区工事の一〇〇四万二五〇〇円(相豆建設株式会社から平成七年四月二七日に入金された一〇〇万円及び同年六月一四日に入金された九〇四万二五〇〇円)、岩原造成地・宅地造成工事の一一一四万円(アイ不動産事務所から平成七年七月ころに入金された三三〇万円、同年一二月一五日に入金された三〇〇万円及び同年一二月二七日に入金された四八四万円)、岡邸新築工事の七八〇万円(岡輝朗から平成七年一〇月二七日に入金された六一〇万円及び同年一一月三〇日に入金された六七〇万円の内金)の合計二八九八万二五〇〇円を横領した。原告瀧口は、野沢を管理監督すべき地位にいたのであるから、野沢の右横領行為を未然に防止出来なかったことについて、「業務上の怠慢又は監督不行届」(就業規則四七条四号)あるいは「業務に関し、重大な過失」(就業規則四七条七号)があったというべきであり、懲戒解雇事由が存した。

2 原告瀧口には右のとおり懲戒解雇事由が存し、被告において懲戒解雇手続をとっていないが、少なくとも内部的には懲戒解雇であるので退職金請求権は存しないというべきであるし、平成九年一月二七日(本件第二回口頭弁論)に、原告瀧口の従前の退職届受理を撤回して平成八年三月一五日付けで懲戒解雇する旨の意思表示をしたので、この点においても原告瀧口の退職金請求権は存しない。また、平成八年二月分の職務手当一六万五〇〇〇円については、野沢の右横領行為を未然に防止出来ず、役職としての責任を果たしていなかったことからカットしたものである。

3 退職慰労金規程第四条は、「本給」と規定され、給与規定上「本給」とは「基本給」のことであるから、別表に「基準賃金」と記載されていても、基準賃金のうちの本給部分と読み替えるか、記載上のミスと考えるべきもので、退職金額は、退職時の基本給を基礎に計算されるべきである。したがって、原告熊谷の退職金総額は四三〇万六六〇〇円(但し二〇〇万円は支払済み、三五万三〇〇〇円×一五と一二分の三×〇・八)であり、原告瀧口に仮に退職金請求権が存するとしても、その額は七三六万〇〇五〇円(三五万三〇〇〇円×二三と一二分の二×〇・九)である。

第三争点に対する判断

一  争点1について(原告瀧口が退職金請求権を有するか)

被告は、原告瀧口の退職金請求について、懲戒解雇事由が存し、被告において原告瀧口の懲戒解雇手続をとっていないが少なくとも内部的には懲戒解雇であるので退職金を請求できないと主張するので判断する。被告の従業員に適用される退職慰労金規程(第二条)には被告が懲戒解雇した従業員には退職金を支給しないことが規定されているのみで、これ以外の退職金不支給事由を規定していないところ(書証略)、原告瀧口は、平成八年二月一五日ころ、同年三月一五日を希望退職日とする退職届を被告に提出しており、遅くとも同年三月一五日までには、原告瀧口と被告との間の雇用契約は終了したものと認められ(書証略、弁論の全趣旨)、被告においてこの間に、原告瀧口に対して内部的にではあれ、具体的な懲戒解雇事由を示したうえで、退職届を受理しないこと及び懲戒解雇とすることを明確に通告し、原告もそのような手続がとられたことを了知していたと認めるに足りる証拠はなく、結局、被告において、就業規則上の懲戒解雇の手続をとったと認めるに足りる証拠はないから、被告の主張1記載の事実が存することを理由に退職金の支払いを拒むことはできないというべきである。また、被告は、平成九年一月二七日に、平成八年三月一五日付けに遡って懲戒解雇をした旨の主張をするところ、雇用契約終了後における右意思表示は効力を生じないというべきであるから、この点に関する被告の主張も理由がない。

二  争点2について(退職金計算の基本となる金額が基準賃金か基本給か)

1  退職金計算の基本となる金額について、原告らは給与規定で定める基準賃金(基本給、職務手当、役付手当及び家族手当の合計)であると主張し、被告は給与規定で定める基本給であると主張するので判断する。被告及び新光不動産における退職慰労金規程の適用は原告熊谷が最初であるうえ、右規程制定当時の事情を知る者も存しないので(書証略)、退職慰労金規程の文言自体を検討するに、本文において「本給」に別表の支給率を乗じた額を支給する旨を定め、別表には「(退職時の基準賃金)×勤続年数」との記載があるのであるから(争いのない事実6)、右規程の体裁上、本文において退職金計算の基本となる金額を定め、別表においては単に支給率を定めているに過ぎないものと解される。そして、本文で定める「本給」は、給与規定第八条が本給額との表題の下に基本給について定めているから(争いのない事実7)、基本給を指すものと解され、別表の「基準賃金」という記載とは矛盾するが、前述のとおり別表は本文による説明の範囲内の支給率を定める限りにおいて効力のあるものと認められる。ところで原告らは、給与体系を基準賃金と基準外賃金に区分した給与規定の制定された昭和四五年一月五日に、退職慰労金規程の別表が改訂されて、「基準賃金」を退職金計算の基礎とすることになったと主張するところ、給与規定によって初めて基準賃金と基準外賃金との区別が行われるようになったものであるのか、それまで慣行等として行われてきたものを規定化したのかも明らかではないうえ、右時期の退職金規程の改訂が従来別表に「本給」との定めがあったものが「基準賃金」と改訂されたものであると認めるに足りる証拠もない(支給率を改訂したものとも充分に考えられる)ことに加え、本文自体は退職金計算の基礎額を「本給」としている点をもあわせて考えると、この点に関する原告らの主張は理由がない。

2  右によれば、原告熊谷の退職金額は、退職時の基本給額三五万三〇〇〇円に一五と一二分三を乗じ、さらに〇・八を乗じた額である(争いのない事実4)四三〇万六六〇〇円(被告の主張3も同様)であり、被告は二〇〇万円を既に支払っているから、被告が原告熊谷に支払うべき退職金残額は二三〇万六六〇〇円である。また、原告瀧口の退職金額は、退職時の基本給額三五万三〇〇〇円に二三と一二分の二を乗じ、さらに〇・九を乗じた額である(争いのない事実5)七三六万〇〇五〇円(小数点以下四捨五入、被告の主張3も同様)である。

三  被告は、原告瀧口の平成八年二月分の職務手当一六万五〇〇〇円については、野沢の横領行為を未然に防止することが出来ず、役職としての責任を果たしていなかったことからカットしたものであると主張する。しかしながら、給与規定において職務手当の支給について規定し、原告瀧口の職務手当額を平成八年二月に入る段階では一六万五〇〇〇円と定めており、職務手当の削減についての給与規定の定めもないこと(書証略、弁論の全趣旨)を考慮すれば、平成八年二月分の賃金支給時に、被告の主張1記載の事実が存することを理由に被告が一方的にこれを削減することはできないものと認められ、この点に関する被告の主張は理由がない。したがって、原告瀧口の平成八年二月分の職務手当一六万五〇〇〇円の請求については理由がある。

四  以上の事実によれば、原告熊谷の本訴請求は、退職金二三〇万六六〇〇円及びこれに対する平成八年六月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、原告瀧口の本訴請求は、退職金七三六万〇〇五〇円及び職務手当一六万五〇〇〇円(合計七五二万五〇五〇円)並びにこれらに対する平成八年六月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 片田信宏)

別表(略)

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